2007年11月2日金曜日

桐壺




桐壺
父帝と母桐壺とのストーリー、光源氏の誕生に始まる。
母桐壺更衣の死。光源氏の元服そして結婚。
父桐壺帝の後妻「藤壺の宮」への思慕。


平安御所の後宮の、七殿五舎のうちの一つ。
正式には淑景舎(しげいしゃ)という。
天皇の日常の御座所となる清涼殿からは最も遠く、
あんまり縁起がよくない北東の方角にある。庭に桐が植えてあったことから桐壺(きりつぼ)と呼ばれる。



源氏香をとりあげてなんか書こう、とか言っといて、
いきなりこの「桐壺」には源氏香マークがないのです。
1巻と最終巻は「ハズレ」の扱いになるらしくなんだその扱いは。


現代日本において、
桐という木が生えているのをあんまり意識した人はいないと思う。
「あそこの公園に生えてたよ」とか。
箪笥の産地に行けば、結構あるのだけれど。
そう、桐といえば箪笥。あとは下駄とかお琴の材料とか、
能面のベースに使用します。

それは桐という素材が、日本に自生生産される木材の中で
最も軽い、という理由があります。だから面や下駄になります。
次に、軽いのに湿気を吸い難く、さらに割れ難い、という特徴があります。
まさに下駄であり、箪笥であり、面であり、湿気を吸い難いということは
楽器、つまり琴に向いていると思われるのです。
楽器に必要な、「振動が美しい」のかどうかはわからないけれど。
また、火にも強いそうなのです。
乾燥してて軽いのに、お前不思議だね桐。
だから金庫の内箱に使うのだとか。
ああそういえば偉そうな金庫の中って、木で出来てたかも。
そういえば桐箪笥っぽかったかも。
お前すごいね桐。
あとはあの香りだろうな、と思うのです。
「清々しい」という言葉通りの桐の香り。

さて、そんな桐なので、古来より「高貴なものの象徴」として扱われてきました。
家紋の偉さで言うと、
天皇家の十六菊関連の次が、桐紋シリーズに相当します。
残りの弓矢とか羽とかそんな家紋なんか目じゃないのです。
古来桐の木は、「鳳凰の宿り木」とされていました。
鳳凰とは簡単に言えば空想の鳥ですけれど、
ここでのニュアンス的には帝王とか世界の王とかそんな意味合いを持ちます。
だから、宮廷のグッズ(調度品、服など)には桐紋が多用されてきました。
摂関家なども、「天皇から許可されて」使用することを許されて、
(なんたって鳳凰=天皇の止まり木ですから。勝手に使用は出来ません)
のちには足利将軍や織田信長、豊臣秀吉が勅許(天皇からの直接許可)を貰って
使用しています。
有名な「太閤さんの桐」というやつです。

明治維新以降かな?終戦後かな?「勅許」は必要なくなったのですが、
それでも前述の由来から、
「天下人が使う家紋」
「臣下第一の家紋」
という印象は抜けていないのです。
現に、日本の現在の政治の最高位といえば内閣総理大臣。
総理大臣が使う紋章は依然として桐紋なのです。

首相官邸ホームページ  (右上注目)

パスポートにも桐紋使われていますし、
なにより身近なところでは、
500円玉に桐の紋が入っていますよね、ってなんだ庶民>自分
旧五百円玉はもっと「桐の家紋」という感じだったのですが、
新五百円玉はなんだか「桐の花のスケッチ」みたいになっているのです。
あの桐紋は、たいてい花の部分が3本立っているのです。
その数が「3-5-3」だと「五三の桐」、「5-7-5」だと「五七の桐」という風に
区別して、それによって偉そう度が変わったりするそうなのです。
・・・え、500円玉は高貴じゃないだろ?って?
いやいや、いやいやいや。
奴は
「日本の通常硬貨の中で最高の額面」
という、立派に桐紋の条件を満たしているのですよ。


さて、長々と桐の木の話をしてきたのですけれど、
つまり本題は「紫式部、憎い位よく考えてるなぁ」ということ。
この長い長い物語の発端となる人物、桐壺更衣はですね、
さっと書きますと、

・後ろ盾が少ない、身分がいまいちの女性
・だが透明感のある美しさを誇り、気立てがいい
・天皇がそれを気に入ってしょっちゅう通う
・お陰で他の女御らに嫌がらせを受ける
・光源氏という、ある意味高貴である意味大人物が生まれる
・若くして死んでしまう

というストーリーを、「桐壺」を舞台に展開するのです。
この桐壺という場所、冒頭で紹介しましたが「縁起の悪い、かつ不便な場所」
なので、史実ではあんまり女御や更衣の利用はなく、
で、女性たちとも遠いので、
摂政(幼い天皇を補佐する特命大臣みたいな役)の仮宿舎に使われるぐらいの用途が
多かったらしいのです。

そんな場所に、
・後ろ盾が少ない、身分がいまいちの女性
=だからこそ、
 「人気のない桐壺ぐらいにしか置いてもらえない」というリアル感。

・だが透明感のある美しさを誇り、気立てがいい
=なんたって高貴なる「桐」ですから。

・天皇がそれを気に入ってしょっちゅう通う
=「鳳凰の止まり木」ですから。

・お陰で他の女御らに嫌がらせを受ける
=場所が不便なので、
 他の女御らの部屋の前をどうしても通らないといけなかった。
 つまり、「罠をいっぱい仕掛けられる」上手な場所設定。

・光源氏という、ある意味高貴である意味大人物が生まれる
=「鳳凰の宿り木」ですから。

・若くして死んでしまう
=北東、つまり鬼門の方角で縁起が悪い。
  これは天皇家の鬼っ子、光源氏が生まれる、にも当てはまる。


第一巻の桐壺の巻って、かなりやっつけ仕事というか内容盛り沢山過ぎて、
どっちかっつーとそれ以降のキャラ設定解説の巻だとか思われがちだけれど、
実はここまで練りこんだ設定があったのですよ。

すごいよ紫式部。